熱情劇場

日本語めちゃくちゃ断末魔

高尾和成が怖い

黒子のバスケに出てくる高尾和成と聞いて、人々はどんなことを思い浮べるだろうか。

秀徳高校バスケ部一年生。

コミュニケーション能力に長けた、緑間真太郎の相棒。

鷹の眼の使い手であるPG。

負けず嫌いの努力家。

そんな彼について、黒子のバスケキャラクターズバイブルにて、作者の藤巻先生はこう述べている。

 

「いい奴だし描いてて楽しいんですが、自分は苦手なタイプ。決して嫌いではありません」

 

私は高尾和成が怖い。もうめちゃくちゃ怖い。もしも身近にいたらと想像しただけで緊張する。手元が狂う。平常心でいられない。

高尾和成というキャラクターのことは好きだ。人生で一番最初に買ったキャラソンCDは高尾のものだったし、今でも私のツイッターのつぶやきには少なくない頻度で彼の名前が登場する。秀徳対洛山の試合では自然と涙があふれた。EXTRA GAMEで緑間くんと赤司くんにて空中装填式3Pシュートを「完璧だっつーの」と悔しさと嬉しさと誇らしさが入り混じる表情でつぶやく彼のことが好きだ。

ただ、周囲に高尾がいたら怖いので本当に嫌だ。

齢16歳にして自身の長所について「人見知りあんましないこと」、反対に短所については「逆に人によっては馴れ馴れしいとも言われっから…その辺のキョリ感」と話す。ただコミュニケーションの力が高く、明るくてノリがいい男というだけではない。自分のことも、その自分のことを見ている周りの人間たちのことも、彼は見えている。

それを知った上であのように振舞えるところがすごく怖い。

だって、「こいつ自分のことあまり好いていないな」「好ましく思われていないんだろうな」と行動や言動から察知してしまったら、自分もその相手のことは少なくとも進んで関わりたい相手ではなくなるのが普通だと思う。それなのに高尾は緑間くんに進んで絡みに行き、その隣で競うように努力を続けるメンタル。能力パラメータで精神力が10段階のうち7とは到底思えない。というか現時点で7だったら3年生に進級する頃には一体どうなってしまうのだろう。

なぜ私はこんなに高尾和成のことが怖いのか。それはおそらく高尾の自分に対する厳しさが周囲に対しても滲み出ていることがある(と勝手に妄想している)からだと思う。

黒子のバスケは試合描写が本編の8割以上を占めるため、登場人物たちの日常場面はわずか。ゆえにそのわずかな日常パートや小説版、アニメやそれに伴うグッズおよびキャラクターソングなどさまざまなメディアミックスから勝手に空白である普段の人物像を埋めている。

その中でも私が「高尾こわ」と思った3つのエピソードを以下に記す。

①「なーんてな♥」と言いながら相手の意表を突くプレイを繰り出す

結構序盤からこのシーンというかくだりはよく見られる。漫画における強キャラにはありがちなセリフと行動だ。つまり私は普段ヘラヘラとしていてその態度を崩さないまま力を行使するタイプの人間は大抵苦手ということになる。表情と行動が伴ってない人、現実にいたらめちゃくちゃ怖いじゃないか。

この彼の「なーんてな♥」が「なーんてな♥」じゃなくなったときを想像するとめちゃくちゃ怖くないか。マジ切れした高尾はおそらくシャレにならないくらい怖い。

仮に高尾が上司や先輩など自分を評価する立場にいる人間だったら。普段明るくて気の良い人だと思っていたのにある日呼び出されて自分の至らないところを驚くほど冷めた目で的確に淡々と挙げられる。え、なに、こわ、え…すみません、もう「なーんてな♥気にすんなよ!」といつもの明るい笑顔で肩を叩かれたとしても先ほどの説教中の冷めた目を見てしまった今もうその笑顔すらも怖い。

バスケ部関係者も、無関係であるクラスメイトや友人も多くの人が高尾に抱く「明るくてノリのいい奴」が崩れたときの落差が大きすぎるから怖い。

 

②「みんなよせばいいのに努力家だよな そんな相手がゴロゴロ出てくる青春ってやっかいだ」(キャラソン『エース様に万歳!』より)

これね、すごくいい笑顔で歌ってるんですよきっと。

怖い。ア――――もう怖い。努力が当たり前の彼が怖い。それも楽しんじゃってる彼が本当に怖い。まぶしい。

いやいやそんなの黒バスキャラのほぼ全員に言えることだろうと思うかもしれないが、高尾の場合は無言で無意識にその「当たり前」を他人にも求めている部分がありそうで怖い。「明るく楽しく生きたモン勝ちっしょ!でもそのためにはやることはやらなきゃじゃねー?なあ?」とでも言おうか。

そのやらなきゃならない「やること」のレベルが他人よりも高いところの自覚はない。それが高尾にとっての常識だから。①にも通ずるところがあるが、そのレベルに見たらない人間への冷たさが尋常じゃない。これももちろん悪気は一切ないのだ。「あーね、そういう考えの奴(人)もいるよね。…へー」みたいな顔で見下ろしてきそう。その顔も一応笑ってはいるものの上記の考えがにじみ出るどころか前面に出まくっているので、自分の能力が劣っている、その原因に努力不足や準備不足が含まれるという自覚のある人間は彼の隣で活動をしていたら死ぬ思いをすることになる。

私のことです。

 

③小説版2巻で「…おまえには関係のないことだ」という緑間くんの妙な間があることを見逃さない

まあ緑間くんは多分わかりやすいので誰でも「何かあるな」ということはわかるかもしれないが、それ以上にそこに突っこんでいくところが私は高尾和成の恐ろしさだと思っている。

高尾、意図的に核心ついてくることが多そう。緑間真太郎にそれができるのだから一般人相手に核心つくことなんて屁でもない。

やっぱりあのヘラヘラした調子を一切崩さず「○○さんってさー、ぶっちゃけ今めんどくさいと思ってね?」「あの人のこと嫌いっしょ?」とあまり触れてほしくないところもズバッと刺してきそう。

もちろんこれは意図的なのでその裏には(そのせいで雰囲気悪くなってんだけど?)(そのせいで仕事の効率落ちてんだけどどうする?)など彼の怒りや呆れのメッセージが込もっている。でもそれにしたって触れてほしくない感情を読んできそうなところが怖い。

性相手にどこまでそのような言い回しを使うかはわからないが、これを使われた日にはもう謝って黙ることしかできない。ああもうすみませんでした。

 

考えれば考えるほど高尾にはクラスやサークル、職場にはいてほしくない。自分の努力不足のせいで能力が低く、感情に左右されやすい私に高尾をあてられたらマジでひとたまりもない。

ところが、高尾のような人は実際にいる。彼ほどスペックが高いとかそういうわけでもないが、努力で高い能力を得て、一見人当たりはいいもののその調子を保ったまま核心ついてきたりする人はいなくもない。今まで生きてきた中でも数人は思い浮かぶ人物はいる。

ではそのような人とも上手くやるにはどうしたらいいのか。

わかるわけがない。わからないので、高尾属性(勝手に命名)の人には認められるか、もしくは表面上のかかわりを保つことしか思い浮かばない。そして認められる可能性は低いので後者を目指すもののかえって日に日に軽蔑されていく…というルートが容易に想像できてしまう。怖い。

 

ただ一つ言えることは、そんな高尾が築いた緑間くんとの信頼関係はとても尊いものだと思う。認めている、でも負けたくない。そんな感情から始まって、形を変え姿を変え、でも根幹にそれを残したまま唯一無二「とっておき」のコンビネーションプレイを生み出した。

関わりたくはないけどずっと見ていたい。高尾は、私にとってそういう人物だ。