熱情劇場

日本語めちゃくちゃ断末魔

日吉若を愛してしまった

待ち望んでいた。氷帝学園が、日吉若が勝つ日を。


日吉若は、主人公越前リョーマと戦うために生まれてきた。

青学の柱で未来であるリョーマくんの対比となるキャラクター。確固たるスタイルを持っており強いのだということを明確にした上で負けてしまうのは当然だ。仕方ない。
全国大会のダブルスでは、乾先輩と海堂くんが関東大会での敗北を経た上での絆と努力を描くのだから負けてしまう。当然だ。仕方ない。
U-17合宿の同士討ちは、跡部景吾から明確に部長を託される試合。テニスや跡部景吾への想いを私たち読者に分かるように示し、成長した姿を見せてそれでも跡部景吾という選手の「今は」越えられない絶対的な存在であることを思い知ると同時に来年の、そしていつか絶対彼を倒すことを再び強く決意する。だから、敗北してしまうけど仕方ない。
仕方ない。仕方ない。
でも、いつになったら日吉くんが試合で勝つ姿を見られるんだろう?

 

跡部景吾という絶対的な憧れであり倒したい相手であり目標の背中を一心に見つめ続ける、強くて、美しくて、生意気で、憎めない可愛らしさもあって、負けず嫌いで、真っ直ぐで、まだまだ未完成で、目が離せない。私にとって日吉くんはそういう存在だ。


ビジュアルをひと目見た時から既に少し好きになっていた。原作で、アニメで、ミュージカルで彼の言葉を聞いて試合を見てどんどん好きになった。気が付いたら1か月もしないうちに私の部屋には原作全巻と愛蔵版、日吉若等身大タペストリー、キャラソンCDが揃っていた。今世に出ているものだけではなくて、もっと日吉くんの試合やテニスをしている時以外の普段の彼が見たいと思ったから。
幸せなことに、テニスの王子様はファンの想いが原作者の許斐先生や制作スタッフさんたちにそのまま伝わる、素晴らしいジャンル。だから、この「好き」という気持ちを微力ながらもお金やコメントに変えていけばそれは必ず叶うと思った。


そして去年の春、願いが突然に叶った。
今の原作から少し未来の話で、日吉くんの試合が描かれることになったのだ。
日吉若を好きになった日から、ずっとこの日を待っていた。日吉くんが勝利して、私たちファンに笑顔を見せてくれる日を。
下剋上という言葉について、日吉くんは同士討ちの対比と跡部戦で「負けた時の予防線」と語っている。よく言えば挑戦者。わるく言えば自分は下位の者で、負けて元々。そう思っていたと。
だが全国大会を経て、跡部景吾から部長のバトンを引き渡されて、日吉若は変わった。ひとまわりもふたまわりも成長した。「アンタを倒して俺が天下を獲る時来たり」何回読んでも見ても、この日吉くんの言葉を見ると胸がいっぱいになる。
私の推し、強いじゃん。かっこいいじゃん。
あの時からまたさらに成長した日吉くんが見られるのだと、嬉しかった。それと同時に、もう負ける気なんてしなかった。日吉くんが、氷帝が必ず勝つ。なんの疑いも無くそう思っていた。メタな話をしてしまえば、テニラビの前日譚やメディアミックスでの扱いを見ていても、氷帝がチャレンジャーサイドであることは明らかだった。挑戦者として戦う推しが、楽しみで仕方なかった。

前篇で見せてくれた日吉君の姿に、涙が止まらなかった。

跡部景吾の背中だけを追い続けていた日吉くんが、共に戦う部員たちを見ている。氷帝学園でのS1の座を一番欲しいものと上げていた日吉くんが、仲間たちとの全国制覇を目指している。

贔屓目なしに、成長著しい日吉若が負ける気がしなかった。

 

来たるS1の対戦カードは、日吉若VS切原赤也
ずっと見てみたいと思っていた試合だ。日吉くんが今一番ほしいものとして挙げていたS1の座。新人戦から約1年半。かつて戦って敗れている赤也相手に、どんな技を繰り出すのか。どんな言葉を向けるのか。そして相対するW杯を経た赤也は、選手としてどのように成長しているのだろう。手汗と動悸が止まらなかった。

 

日吉くんの能力の成長は期待以上だった。
なんらかの新技を会得しているということは予測していたけれど、まさか四神を召喚してオーラを背負うとは。演舞テニスにその先があったなんて。一発でナックルサーブを返してしまうほどに進化しているだと。

日吉くん、強いよ。凄いよ。

部長を自分が引き継ぐことを当然とハッキリ答える日吉くんが、夕日と相まって美しかった。何度も敗北を経験し、それでも自分が氷帝テニス部を率いると決意した日吉くんはまぶしかった。

幼稚舎の日吉くんが跡部さんのテニスに出会って「跡部さんは、俺が倒す」と中学校進学後テニス部に入ることを決めたのもこの日と同じ綺麗な夕日だった。

あれから2年以上過ぎたけど、その目は変わらず跡部景吾を映しつつも一緒に戦う仲間たちが横に立っている日吉くんは、強い。赤也に圧倒され「このまま俺は(負ける)」と一瞬弱気になりかけるも跡部さんの一言ですぐに立てなおすことができた。
本気で心の底から、日吉くんが勝つと信じていた。だから日吉くんが膝から崩れ落ちて試合終了した時、誇張でもなんでもなく本当にビックリしてしまった。

 

「試合は持ち越し」

赤也は日吉くんに向かってそう言ったけれど、むしろ、現時点では赤也の方が選手として能力が上回っているのだと決定づけられた試合だったと思う。
心も身体もあんなに強くなったのに。
ストーリー的に言ってしまえばどっちが勝ってもおかしくない流れで。

呆然としてしまった。心から悔しい。苦しい。負けてしまったんだ。

選手席に戻った日吉くんが跡部さんを目の前に悔しそうに顔をゆがめた時、跡部さんは「このキングダムコートに1粒もこぼすんじゃねえ。それは勝利の時にとっておけ」そう言葉をかけて彼の頭に触れた。
その言葉に日吉くんは強く頷き、部長としての背中は崩さずに試合を終えた。

私が代わりに泣いた。だって勝ってほしかった。勝つと思ってた。日吉くんが勝つ、そう信じてたから。
この二ヶ月間、いや、氷帝VS立海の制作が発表させられた時からこの瞬間を見ることが唯一怖かった。日吉くんが負けることが。日吉くんが負けて涙を流す姿を見ることが。

それは跡部さんのおかげで見ずに済んだが、もう暫くは立ち直れそうにない。痛い。辛い。苦しい。

かつて女子高生で所属していた部活の次期部長候補であった私は、日吉若にどこか自分を重ねていた。そんな時代があったせいもあるのか、今は彼の敗北が自分のことのように苦しい。
どうして日吉くんをこんなにも好きになってしまったんだろう。

そんなメソメソする私を他所に、スクリーンの中の日吉くんはとっくに前を見ている。関東大会でのS1後を思い出させるような、日吉くんだけの氷帝コールの中で君臨していた。切原赤也に対して2度目の敗北に心に痣をつくりながらも、その痣さえも糧にしてまたさらに強くなっていくのだろう。

 

立海神話はお前の代で途絶える」

 

自分を膝から崩れ落とした相手を前にしても、その姿を部員たちに見られていても、それでも、貫き通す部長としての姿勢。それはまさしく跡部景吾から受け継いだ背中だ。

日吉くんはこう言ってるんだし、おそらく、いや今度こそ絶対氷帝学園が勝つのでまだまだやっぱり彼から目を離せそうにない。

 

氷帝学園の勝利を信じて過ごしたこの11ケ月、本当に幸せだった。

だけど、それとは別にもう暫くこの苦しさを引きずってしまうだろうけど、許してほしい。それほどまでに本気で信じていたのだから。