熱情劇場

日本語めちゃくちゃ断末魔

森山由孝の魅力と潜在能力

先日、黒バスの異性モテキャラを真面目に考えた記事を書いたら思っていたよりもたくさんの反応をいただいた。リツイート先で「わかる」と共感してくださっている方、いやいやこのキャラもモテるんじゃあないか、という意見を仰っている方…。反応の種類は様々で、どれも非常に興味深い。あのランキングは公式や準公式のソースを元に考えているが、やはりどうしても私個人の男性の見方や好みも大いに関係しているため、違う意見はあって当然のように思う。

個人的には特に霧崎第一のファンの方々の反応が面白かった。霧崎第一は巷では「お坊ちゃん校」と呼ばれていると花宮真が自ら証言しているため男子校説があり、彼らが日常生活の中でモテるか否かはわからないが、もし共学であるならば花宮真の女子人気はそこそこ高そうだ。あの猫かぶりは風紀委員を務めていることから察するにおそらく日常生活の中でも発揮されており、バスケ部とは無関係の生徒や教師からの信頼も厚いのだろう。鋭い女子は花宮真が周囲の人間をもれなく全員見下していることをすぐに見抜きそうであるが、霧崎第一が私立の進学校であるならば、育ちが良く人を疑うことを知らないお嬢様も在籍しているはず。彼女たちは花宮のことを紳士と信じ込み慕いそうだが、花宮の方はこれまたやはり彼女らを見下しているので恋は始まらない。…いや、彼の好きなタイプは「頭悪い女」だから断言もできないが。一体この好きなタイプにはどんな意味が含まれているのだろうか。

原作に描写があまり無い分、このようにコマの外の黒子のバスケのキャラクターに関する妄想や考察は止まらない。「モテ」と「異性」と高校バスケ選手である彼らを勝手に結び付けて考えるのは楽しい。

 

ところで、「モテ」と「異性」のキーワードといえば一人、大事な人物が作中に存在する。そう、森山由孝だ。

海常高校バスケ部3年。ポジションSG。身長181cm。体重67㎏。趣味はフットサルで部活がオフでもスポーツで汗を流す塩顔イケメン。

この情報だけを聞けばあまたの女子たちが飛びつきそうなプロフィール。私もキャラクターとして見ても一男性として見ても森山由孝のことが大好きだ。マッチングアプリであの顔とこのプロフィールが現れたらいいね!はしないかもしれないが、ひとまずしばし眺める気がする。

私は森山由孝のことが大好きだ。その前提のもとで話を進めさせてほしい。

森山由孝のというキャラクターの人間性を語るうえで欠かせないのが、海常VS桐皇のIH準々決勝後の場面とセリフだ。会場を後にする部員たちの中に主将である笠松先輩の姿が見当たらず戻ろうとする黄瀬に対し、「やめとけ」とだけ声をかけ引き止める森山由孝。ロッカーでは一人、試合結果を受け涙を流し悔しさをぶつける笠松先輩がいることを彼は知っている。チームを背負う笠松先輩にその時間が必要であることを森山由孝はわかっているのだ。

彼のキャラクターが立った準々決勝前の描写から「女好き」「試合そっちのけで会場内の女の子を探す」などマイペースで軟派なイメージを私たち読者に植え付けていたが、上記のシーンからただそれだけの男ではないことがわかる。学校全体でスポーツに力を入れている私立高校の部活であり、体育会系なノリの強い海常バスケ部の中で、高い実力を持ちつつどこかとっつきやすい印象があるのも森山由孝のポイントが高い点だ。

そう思っていた。小説版第1巻を読むまでは。

小説版第1巻に収録されている「海常高校青春白書~夏休みはまだ終わらせない~」では、IH準々決勝から1週間後の海常高校バスケ部の面々の様子が描かれている。ちなみにバスケはしているけどしていない。

簡単なあらすじを言うと夏を充実させるという目的のもと森山由孝を筆頭に海常高校バスケ部レギュラー陣がナンパに繰り出す…という内容だ。ここではほぼ森山由孝が中心人物のようなものなので、そりゃもう喋る。本編の3倍くらいは喋る。喋りまくる。そして名言も飛び出しまくる。

 

「オレがネットで調べたところ、女の子ってのは、男の柑橘系の香りが嫌いじゃないらしい」

「オレがネットで調べたところ、ナンパは大人数でやるほうが楽しいと書いてあったからだ」

「残酷なのは、スポーツ少年の純情さを理解できない世の中だ」

「これは運命だから抗っちゃいけない。もうこの手を離したら、二度と会えない気がする。まさしく運命的めぐり合い。これを逃さない手はないよ」

「おかしいな、ネットで調べたとき、女の子は≪運命の出会い≫という単語で押せば、必ず折れるって書いてあったんだけどな・・・・」

 

森山由孝は思った以上に女好きだったし、しかも思った以上にその手口はネットだよりだった。

ついでに準々決勝前に目をつけていた「運命の女の子」には試合後ちゃっかり声をかけていたことも判明した。しかも一瞬でその運命とやらは引き裂かれていた。

先ほどの「あまたの女子が飛びつくだろう」と揶揄したプロフィールにも数々の補足がある。その中でも特にツッコみたいのは、特技:手相占い 好きな女性のタイプ:セクシーなお姉さん 苦手なもの:チャラすぎる女の子 の3点だ。

セクシーとチャラさはイコールではないが、混同されて使われることも多い。セクシーである、すなわち魅力ある女性が積極的にすり寄ってきたとき森山由孝は一体どうするつもりなのだろうか。

小説版第6巻で本編中3年生だった彼らの大学進学後の様子が描かれているが、森山由孝は全くブレていなかった。なんと試験会場で運命の女の子に出会ったからという理由で志望校を変更しているのだ。しかも入学後彼女は見当たらなかったらしい。もうどこからツッコめばいいのかいいのかわからない。そんなこんなで都内郊外の大学に進学した森山由孝だが、進学後さっそく女子大との合コンの約束を取り付けているなどなかなかにエンジョイしているようだ。前述したが森山由孝はその合コンでセクシーで積極的なお姉さんに「ねえよしたかくん・・・このまま二人で抜け出しちゃおっか♡」と寄りかかられたらどうするつもりなのだろうか。これは私の勝手な予想だが、脇汗をだくだくにかきながら「せっかくの運命の出会いなのだからゆっくりと…」とかなんとか言って逃げる気がする。なぜなら彼のいう「運命の出会い」とは本当に出会いのみで止まっており、その先のことは想像も想定もできていないからだ。だから声をかけても何も始まらない。会話も基本的にはネットで引っ張ってきたことでつないでいるため自分の話をしようとすると専門的で他者はあまりついていけないようなバスケの話になるため続かない。それに森山由孝はあんなにもモテや異性に執着しているわりに女心が一切わかっていない上に典型的な「追われるより追いたい」タイプと見受けられるので、向こうから迫られると分かりやすく引くと思われる。

それにしても森山由孝は、私生活において運命の女性とやらに対して一体どこまで本気なのだろうか。運命の女性と出会い恋愛をしたいという気持ちは本物なのだろう。しかし、好敵手との大切な試合で本気モードになれば「さっきから女子が目に入らん」とピリついた雰囲気を出したり、黄瀬経由で合コンが開かれてもバスケの話になった途端念願の女の子たちをそっちのけでバスケの話をしたりと、少なくとも口では何と言おうと彼の中ではバスケ>女の子であることは数々の描写からわかる。そんな彼だし、真に頭が悪い男とは思えないので「運命の女性がいたから」という理由だけで大学の志望校を変えたというのはどうにも腑に落ちない。運命の女性(というか一方的に一目惚れした女性)を見かけたからというのも理由の一つなのかもしれないが、おそらく彼なりに学びたい分野のことやバスケのことなど色々考えた結果なのだと思う。飄々としていて真顔でふざけてばかりに見えて、芯は真面目で強い男なのだ。ずるい。

森山由孝は思い込みが激しくこうだと決めたら真顔で突き進んでいく男だ。笠松先輩が言うのだから、女性相手に限らずバスケや私生活にいてもそうなのだろう。よく言えば猪突猛進な努力家、悪く言えばイノシシ野郎。まっすぐ向かっていったわりに終着点が見つからずいざそういう場面を迎えようとしても自分の中で整理がつかずに逃げ出す、もしくは思い切りとんちんかんなことをしでかし相手側から白い目で見られて終わる。

彼は運命という言葉で女性を釣って一体何がしたいのだろうか。なんか恋愛=幸せのようなイメージがあるのかもしれない。キスとかなんとかよくわかんないけど、自分好みの可愛らしい女の子が自分のこと好きって言ってくれたら最高に幸せなんじゃないか?みたいな思考なのか。異性や恋愛に対し過度に夢を見ていることがありありとわかる言動から考えると、おそらくというか確実に森山由孝は童貞なのだが、ぱっと見はそう見えないのもまた難しいところだ。一回どうにかして「女」を知れば落ち着くのかもしれないが、知ったところで「今回は運命じゃなかったらしい」と真顔で言っていそうなところもたちが悪い。

休日は友達とフットサルをして過ごすという陽キャっぷり。基本的には絡みやすくてツッコミどころが多いところも「面白くていい奴」という周囲からの評価を得てバスケ部以外の男友達も多そうだ。兄がいるし、彼が頼りにしているネット上にはモテるための服装のポイントなどの情報も腐るほど載っているため、私服もアニメやグッズ等本編外でしか見たことは無いが爽やかで都会的な雰囲気を感じさせる装いだった。

見た目は作中屈指のイケメンである黄瀬と並んでいてもそこまで見劣りしない。黄瀬本人も「オレほどじゃないけど、森山センパイってけっこうイケメンだと思うんスよ」と言っている。

「別名・残念なイケメン」を誇る森山由孝だが、趣味も人付き合いにおいてもセンスもなんら残念な点はない。ただただ恋愛の不慣れさが彼を残念たらしめているのだと考える。

つまり、森山由孝が本当はどんな女の子とどうなりたいのかを明確にする、そしてネット頼りでなく彼が女の子と持ち前の真っ直ぐさを発揮しつつ少しでも女心を理解した会話ができるようになれば劇的に変わると思う。同年代の異性から爆発的にモテるようになる。

森山由孝の潜在能力ははかり知れない。バスケだけでなく他の球技も嗜んでいるほか、特技もある。それも手相占い。こんな涼しげな顔のイケメンが手相も見られるなんて言われたら、彼のことを何も知らない、下心に気付かない女子は普通に手を差し出してしまうだろう。森山由孝のことだから、きっとネットで「手相が分かる男はモテる」みたいな情報を得てからすぐに会得したに違いない。異性やモテに対する執着もすごいが、それですぐに手相の知識や技術を習得できる器用さがすごい。バスケを始めたきっかけも本当に「モテると聞いて」と一見軟派な理由だが、それで全国レベルのチームのレギュラーを張っているのだからすごい。そんな理由で始めておいて自分の人生において大きな財産となる学びや仲間を得ているのだからすごい。森山由孝は、すごい潜在能力を秘めている。「英語が話せればモテる」と聞けばおそらく一般的な人よりも早く習得し話せるようになるだろうし、「総理大臣になればモテる」と教えられれば就任してしまうかもしれない。あの世界のWebライターは「〇〇すればモテる」という情報が記載されたネット記事を書くときはとんでもない怪物を生み出す可能性を含んでいるのだということを想定しなければならない。

おそらく大学生になりバスケ以外にさくことができる時間が増えた森山由孝は、「〇〇できる男はモテる」という情報に片っ端から踊らされてどんどん特技を増やしていくだろう。ボーリングやダーツやカラオケが無駄に上手くなり、運転技術は無駄に高く、美味しくてお洒落で雰囲気のある飲食店やバーに無駄に詳しくなっていく。特技が増えるにつれて会話のバリエーションも無駄に増えていく。しかしそんなことに時間を費やしているばかりで、ネットだけでは学べない肝心の女心はわからないままなので、モテるようにはなったとしても彼女はできない。

ゆえにその能力は彼の一生の友人であり仲間の笠松先輩や小堀さん、大学や職場の後輩(男)に対してのみ発揮され、いつまでも男にばかりモテる男のままなのだ。

ただ、それさえも含めての森山由孝の魅力。器用で柔軟性がありとっつきやすい、でも女心は一生わからない、というかそんな発想すらないので時たまがっかりさせられるがそれをカバーしようと一生懸命全身全霊を込めて「運命の女性」に尽くそうとしてくれる心の底から優しい男。女心はわかってないけど。

女心がわかってしまった森山由孝など森山由孝ではないので、一生そのままでいてほしい。きっといつかそれを含めて彼を愛してくれる人が現れてくれると思うので、それまで変わらずにバスケや仲間を愛し続け、ついでに特技を増やし続けてほしい。

森山由孝の人生に、幸あれ。