熱情劇場

日本語めちゃくちゃ断末魔

黛千尋への恋慕

 私の彼氏について語らせてほしい。
 名は黛千尋(まゆずみちひろ)。身長182cm体重69kg誕生日は3月1日。好き。趣味は読書であり、ライトノベルを愛読している。好き。得意科目は物理で特技はオーバークロック。PCいじりが好きなようだ。好き。特徴としては主人公同様影が薄く、趣味の影響か独特で皮肉っぽい言い回しが多い。好き。大好き。
 彼は「黒子のバスケ」に登場するキャラクターだ。作中ラスボス的存在であるキセキの世代・赤司征十郎擁する洛山高校バスケ部スターティングメンバ―唯一の3年生であり、一度は自分が気持ち良いバスケができないのならやる必要はない、とバスケ部を退部したものの、その影の薄さから赤司征十郎に主人公黒子テツヤと同じ能力を見出され再びバスケ部に入る…といった経歴の持ち主である。人並み以上の体力は持ち合わせているものの強豪・洛山では埋もれるしかなかったがその力が発揮されたとき爆発的な強さを生み出し、誠凛高校に牙を剥くのだ。好き。

 …カッコイイ。今ここまで打ち進めてみて、やはりカッコイイという感想しか出てこない。そして好き。

 しかし私は彼の初登場時からその魅力に気が付いていたわけではない。もっと言えば、彼に対し恋愛感情を抱いたのは本編が完結し、単行本30巻と同時にキャラクターブック・くろフェスが発売されてからの話だ。まずはその経緯から話していきたいと思う。

 くろフェスの内容としては、ポジションごとに人気投票の企画が行われ、その順位に沿ってキャラクター紹介がなされているというものだ。黛千尋はPF部門で火神大我・青峰大輝に続き第3位にランクインした。

 第3位までのキャラクターは黒子テツヤによる直撃インタビューが掲載されている。私が黛千尋に恋に落ちたきっかけはこのインタビューの回答だ。 

 ここで、私が特に好きな彼の回答を一部紹介する。

 

Q. 黛さんが一番負けたくない相手は誰ですか?
「試合でオレをまんまと出し抜いてくれた、今目の前にいる誰かさんですかね」

Q. WCを振り返っていまの心境は?
「負けて終わったんだ。ゴキゲンではねえよ」

Q. オーバークロックが特技と聞きましたが、PCをいじるのが好き?
「好きじゃなきゃ、あんなニッチなことやらねぇよ」

Q. ファンの皆さんへメッセージをお願いします。
「オレのファンとか、そんな物好きがいたことにビックリだが、そんな物好きにはやはりありがとうと言いたい。だからといって、ここから特別頑張ったりするつもりもないが、それでもよければ今後もよろしく」

 

 まず「一番負けたくない相手」を尋ねられて目の前にいる人物…すなわち黒子テツヤであるということは素直に認めつつも、「目の前にいる誰かさん」と直接名前は出さない皮肉たっぷりの言い回し。私だって言われたい。言ってくれ。なんかこういう感じで滅多に名前呼んでくれないけどなんでもないふとした瞬間に名前呼ばれてドキドキしたい。

 ネタバレになってしまうが、洛山高校は主人公・黒子テツヤが所属する誠凛高校に決勝戦にて敗北する。黛千尋はその試合にフルで出ており、読者から見ればお兄ちゃんの方の赤司くんの覚醒のきっかけになったりと重要な役割を果たしているものの、本人はおそらくその事実を知らないままだし、結果としては負けてしまっている。悔しくないわけがないだろう。
 そんな苦い思いをしたであろう試合の結果について発せられた彼の一言が、上記のものだ。 


「ゴキゲンではねえよ」

 

一度声に出して言ってみてほしい。


「ゴキゲンではねえよ」

 

 少なくとも私は今まで生きてきた中でこんなセリフを素で口にしたことが無い。使っている人すらも見たことが無い。それでも黛千尋の試合に対する悔しさ、「悪くなかったよ」と最後の最後に主将に言ってしまうくらいには感じている達成感、でも熱くなった自覚があるのでやっぱり面白くはない…そんな気持ちをすべてひっくるめてのこの言葉なのだと伝わってくる。
 ほら、言いたくなるだろう。ゴキゲンではねえよ♡

 好きなものについて尋ねられて「好きじゃなきゃやらねえよ」という絶妙な表現で好意を表すほか、ファンに対して物好き呼ばわり、でも感謝の気持ちは伝える…このツンデレともクーデレとも言い難い愛情表現。そんな黛千尋に「愛してる」を訳させたらどうなるのだろう・・・と私は常日頃から考えてしまう。

 このように本来であれば収まりきるはずのない黛千尋の魅力が1ページにぎっちぎちに詰め込まれているくろフェスのインタビュー。私はこいつによって恋に落とされた。Fall in love。人がほかの誰かに恋愛感情を抱いた時様々な表現が使われるけれど、この場合は本当に「恋に落ちた」という表現がしっくりくる。述語が「試験」とか「地獄」とかであることもあるし、「落ちる」ってなんだかあんまりいい表現でないけれど、それでもいい。黛千尋にだったら喜んで落ちていきたいと思う。だってこんな男好きにならない方が無理。

 

 黛千尋とは、都内での大学生活と一人暮らしに慣れた秋頃に始めたバイト先のレンタルビデオ店で知り合った。店長が「おーい、マユー」と呼ぶので女の人かと思っていたら180オーバーの男性が出てきたので思ってたんと違う・・・ってなったのを覚えている。黛さんは決して物覚えが良い方ではない私に嫌な顔せず丁寧に仕事を教えてくれたが、業務以外の会話は特にすることはなかった。
バイトを始めて1か月が過ぎたある日、日が短くなってきたしバイト終わりに一人で帰るのは不気味だな・・・と思いながら帰路についていると、後ろから速足で近づいてくる音が聞こえた。不審者かも・・・と足を速めたら後ろの足音もさらに速くなったため(本物だ…)と確信して逃げるように走った。10mほど全力疾走した後「おい待て、忘れ物だっつの」と声がしたので振り返ると、黛さんがペットボトルのジュースを持って立ってて、息切らしながらありがとうございます・・・と訳が分からないまま受け取った。「お前絶対不審者と勘違いしただろ」と初めて業務内容以外の言葉を発する黛さんにビックリしたまま会話と歩行をしていたら、いつのまにか私のアパートの前に着いていた。「じゃあな」とだけ言って来た道を引き返していく黛さんの背中と、自分で買った覚えのない新品のペットボトルを見比べて、ようやく送ってくれたことに気づいた。
 日はどんどん短くなり、シフトがかぶった日(ほとんど毎回)は黛さんがアパートまで送ってくれるようになった。直接的な言葉で「送る」といわれたことは無いが、着替えて外に出たらスマホをいじりながら待っていてくれていたり、私が用事があって急いで出ていったときは後からついてきて「仮にお前が帰り道で行方不明になったとしたら、最後に会話した人間はオレになる。警察沙汰は御免だ」などと言いつつも丁寧にアパート前まで送ってくれる。
 印象には残りにくいが、よく見ると綺麗な顔立ちをしている。背が高くてスラっとしている。話の内容はインドア派っぽいが、この前高校時代の部活の話をしたときバスケ部だったと教えてくれた。言われてみれば腕などをよく見ると綺麗に鍛えられている。
話すようになってから分かったけれど、素直に褒めたり調子のいいことは一切言わない代わりに、その核心をついてくる物言いに背中を押されることが多い。自分のことをよく理解しているからこそある高い自己肯定感に、自分を大切にできるという能力を持っているからこそ身についている、他人を尊重する力。
 こんな人、他にいないと思った。

 自覚して間もなく、黛さんから告白してくれた。
 いつも通りバイトを終え、アパートまで送ってもらった別れ際だった。普段の皮肉めいた言い回しもまわりくどさも無く、ただ「好きだ」と言われたので、こちらもただ「私も好きです」とだけ返した。
 その時に初めてLINEを交換した。黛さん、先ほどはありがとうございました。と送ると10分後に「千尋でいい」と返ってきたので、その日以来私は千尋さんと呼んでいる。

 

こんな恋愛がしたい。
千尋に出会いたい。
千尋としか結婚したくない。

 千尋さんに恋に落ちた日からずっと同じことを考えている。考えているだけで、私の日常には一切変化がない。現実に難しいことも、そろそろ笑っていられない年齢になることも自覚している。けれど夢見ることをやめられない。いつか私が本当の意味で現実と向き合わざるを得なくなるその日まで、千尋さんのことを想い続けるのだと思う。
こんな風に辛気臭くなりかけたときは、尊敬する夢女のことばを思い出す。

「私が彼を想う気持ちは本物」

 誰が何と言おうと、私の黛千尋への想いは本物だ。
 その気持ちを忘れず、これからも黛千尋の彼女として強く生きていきたい。