熱情劇場

日本語めちゃくちゃ断末魔

拝啓 伊月俊様

 

秋晴れの陽気が心地良い時期となりました。いかがお過ごしでしょうか。もう目前まで迫っているWCに向けて、大切で頼れる仲間たちと共にバスケットボールにますます打ち込んでいる頃でしょうか。
さて、こうして今年であなたのお誕生日をお祝いするのも今年で10回目となりました。そこで一つの節目として、こうしてお手紙を書くことにしました。

はじめにお祝いした年から年月を重ねた分だけ、私をとりまく状況も身を置く環境も目まぐるしく変わり続けています。そんな中でも毎年この10月23日はコーヒーゼリーを味わいながらあなたのことを想うひと時を過ごせていることを、心から嬉しく思っています。

この10年間、伊月くんは変わらず強くて美しいままですね。原作、アニメ、ドラマCD、舞台…など、いろんな世界のあなたを見せてもらいましたが、そのたびに好きだという気持ちが強くなるばかりです。そしてこれからも多分、命が尽きて私が私でなくなるその瞬間まであなたのことが好きだと思います。

                                                              

あなたの名前が好きです。

伊月俊。「月」というあなたを象徴する字の入ったどことなく和な雰囲気のある苗字に、優れている、冷静かつ機敏な判断力という意味が込められたファーストネーム。漢字にするとより美しくて、あなたにぴったりな素敵な名前だなあとずっと思っています。何度も呼びたくなってしまいます。伊月くん。

 

あなたの容姿が好きです。
ミーハーだと思われてしまうでしょうが、出会った時から今まで綺麗だと思い続けています。お母様によく似たどの媒体でも艶のある黒髪に、スッと通った切れ長の深くて黒い瞳。趣味を知らないくらい接点のない異性にだってモテてしまうのも納得がいきます。いつもは美しいのに、場面によっては可愛らしく丸みを帯びたタッチで描かれるところもたまらなく好きです。女性的な見た目ではなく、バスケットボールに打ち込んでいる少年らしく筋肉もあってたくましくてしなやかな美しさをもつあなたに、昔も今も夢中です。

 

あなたのまっすぐに趣味を愛する心が好きです。
ダジャレという一見単純な言葉遊びを、知的な上級コミュニケーションとしてとらえているところ。周囲にどれだけ否定されようとも、100冊以上のメモ帳に書き続けてめげずに磨いているところ。正直なところレベルは高いとは言い難いのかもしれませんが、それでもダジャレを愛し、思いつくたびに目を輝かせて披露する姿には愛しさを感じると同時に、あなたの頑固で真っ直ぐな一面を感じられて大好きです。

 

あなたの冷静で穏やかなところが好きです。

まだ若く、少人数ながらも実力者揃いで大人の管理者が不在という誠凛高校バスケットボール部。そんなメンバー達を副主将として、そして司令塔として上手く支えているあなたの人柄は、とても17歳とは思えません。とうの昔に成人した私ですが、未だに伊月くんに人間性で勝てるところが一つも見当たらないです。バスケを愛するあまり時に感情的になってしまう主将をはじめ、まだまだ発展途上の同級生や後輩たちが冷静な視点をもってして穏やかに接してくれるあなたの存在に安心感を覚えた場面は沢山あると思います。伊月くんが誠凛バスケ部というチームに居てくれて本当によかったです。

 

あなたの頑固でストイックなところが好きです。

相手チームからナメられている、と指摘されたときに「わかってる」と答えたり、インタビューで「自分より上手い選手はいっぱいいて、それを自覚しちゃってる部分はある」と言ったりするあなたを見ていると、現状に満足せず常に高見を目指しているのが分かります。そんなストイックなところが大好きであると同時に、もどかしくも思っています。だって、自分の弱さを認められる時点で十分に強い証拠だと私は思うから。もっと自信を持ってほしいし、うぬぼれてほしい。…けれどもあなたは「まだまだ勝ちたい」と走り続けるのでしょうね。「練習の時間が減るから」と恋愛沙汰にうつつを抜かすことなく、残りの高校生活もすべてバスケットボールと仲間たちに捧げるのでしょうね。そんな不器用なくらい頑固なところもやっぱりもどかしいけど、大好きです。

 

あなたの前向きでちょっぴりエゴイストなところが好きです。

「日向と一緒にバスケがしたかったから」誠凛高校に進学したことが数年前に明らかにされました。私はこの真実を知ったとき、生きているうちに知ることができた喜びを強く感じたと同時に、あなたに対して幾つか誤解をしていた(というか理解できていなかった)ことに心の隅でショックを受けていました。自分の実力不足を感じているものの、それに屈することなく真っ直ぐ自分の道を進み続け、その中で出会えた「一緒にバスケがしたい」と思った仲間がバスケを諦めようとしていても芯はそう思っていないことを見抜いてお構いなしに高校まで追いかける前向きさ。仲間を心配して、というよりは自分の大好きなバスケを大好きで大切な仲間と続けたい、というあなたの強い自我が生み出した選択なのだと気付いた時、とても嬉しかったです。それまではどちらかというと大切なものに対して理性的で自己犠牲的な面が強い人物であるという印象でしたが、ある意味覆されたのです。まだまだ私の知らない、もしくは気付いていない伊月くんの一面は沢山あることでしょう。生きていれば、宝石を集めるみたいにあなたのことを知っていけるのは人生の楽しみの一つです。ありがとう。

 

最後に、あなたのバスケが好きです。

黒子のバスケは、信じられないくらいの圧倒的才能を生々しく残酷に描いている物語です。その作品の中で、伊月くんのバスケの能力は決して高い方ではなく、平均的といったほうが適切であると思います。誠凛バスケ部の攻撃に欠かせない、イーグルアイによる高い空間把握能力と、それによる的確なパス回しやスティール。一見すると特殊能力ですが、すべて伊月くん自身による気が遠くなるくらいのトライ&エラーの繰り返しによる結晶でしょう。

「オレは不器用だから一つ技を覚えるにも人の何倍も練習しなければならない。だったらできるまで何倍でもやるしかないだろ…!!」

今でも何かの試験や大事な仕事に臨む時に必ず読み返しているあなたの言葉です。すべての人がそうではありませんが、何か失敗したときや成し遂げられなかったとき、人はつい実力不足ではなくて準備不足のせいにしたくなります。自分が劣っていると自分で認めるのが怖いからです。だけど、あなたはその若さでそれが自然にできている。そして、それでいてなお腐らずに前を向いて努力し続けている。大好きなところであり、尊敬すべきところだと思っています。

伊月くんがボールを回して流れるようにスコアラーたちにボールが渡り、ゴールに吸い込まれていく場面はいままで何度も見せてもらいました。この鮮やかな流れを創り出すまでに幾度の悔しい夜を過ごしたあなたのことを想うと、胸が熱くなります。
あなたのバスケは、常人ならとっくに自己嫌悪で投げ出しているほど気の遠くなる努力と、仲間への深い愛情でできているのだと思います。だからこそ、見ていて強い感動を与えられます。心から愛しています。

 

なんでずっとこんなに好きなんだろう、と思ってあなたの好きなところを書き出してみたら少し長くなってしまいました。

伊月俊という人物を構成するものが、人が、時間が、世界が、すべて心から大好きだと思えてしまうほどにはあなたのことを考えているはずなのに、未だに掴み切れていないのが悔しいです。そしてそれと同じくらい、やっぱりそんな掴み切れないところさえも好きだと思ってしまいます。多分、好きなところしかないのでしょう。

あなたがいなければ今の私は絶対にいませんでした。あなたがいなければ出会っていない人は沢山いて、手に入れられなかったものも数え切れないほどあります。すべては伊月くんの魅力と、その魅力に酔いながら歩いてきた道の生み出した愛しい結果です。

伊月くんが今日も私の人生にいてくれることがたまらなく嬉しいです。生まれてきてくれて本当にありがとうございます。大好きです。

 

敬具

 

2021年10月23日 梨々香

そのあまさ、きっと毒

 

大前提として、私は顔が綺麗(言い換えると顔が好み)な男以外に興味が無い。

もちろん、決して自分の顔が整っているからという理由ではない。私の顔は口の大きさが控えめになったダヨーンに酷似している。

単純に、どうせ見るなら見目麗しい人が良いに決まっている。だから、好きになるのはいつだって才能ある方によって美しくデザインされた2次元のキャラクターか、俳優モデルアイドル等顔面の良さを一つの武器としながら生計を立てている男だった。

 

そろそろ両手の指では足りなくなるほどオタクをやっているが、2次元のキャラクターに声を当てている声優という業種の人には、声を当ててくれているという感謝と、そのキャラクターを通しての好意以上の気持ちが向いたことはない。なかった。

 

天﨑滉平を知ったのは、ヒプノシスマイクにハマってからだった。

初めは本当に何とも思っていなかった。山田三郎のことを好きだと認めること自体にも2カ月ほどかかったので、声優まで気にしている暇がなかったのだ。
2ndライブ円盤で初めてちゃんと動いて喋る姿を見た時はなにやらチャラそうな人だな…目怖いけど…という印象は持ちつつも、その時はまだ「山田三郎の声優の人」というだけの認識だった。それが普通で、いつものパターンだ。

 

だが、天﨑滉平はそのままでは終わらせてくれなかった。

 

まず最初に年齢に驚かされた。

30歳。今年で、というかあと1カ月ほどで31歳。見えない。あまり言いたくないが、これに関しては今でも毎日そう思う。とても30歳の男性とは思えない見た目をしている。下手をしたら大学生でも通じるのではないかと思うほど若々しい…というか幼い。そして、本人にもその自覚がある。ここが問題。

 

これも本当に、もう本当に言いたくないけど、可愛いらしい顔立ちをしている。ああもう本当に言いたくない…。全体的に丸っこい顔の輪郭に、またさらに丸っこいパーツが載せられている。やや上がり気味の口角。何も映していないように見える印象的な黒いビー玉のような目。正直怖くて直視できない。ヒプマイライブでよく見せる顎だけを動かす技さえ出さなければ、言いたくないけど確かに可愛い。そんな自分のことをよくわかっているのかそれとも良いスタイリストさんがいるのかわからないが、着ている服も大体可愛い。言いたくないんだけど。言いたくないんだけども!おそらく、これも本人にその自覚がある。ここもかなりの大問題。

 

あと、天﨑滉平はライブになると普段の数倍マシで声質が甘ったるくなる。楽曲やドラマパート、アニメの山田三郎の声は確かに可愛いものの、その可愛らしさの中に本質に違わない芯のある、そしてまだ未完成な部分も垣間見える少年の声をしていると思う。だがライブになった途端煽りのせいかファンサービスのせいなのかとにかく甘ったるい。蜂蜜と生クリームにさらにメープルシロップをかけている。もうやめてくれ。あとやたらニコニコする。それはいつもか。だとしてもやめてほしい。眩しい。直視できない。かと思いきやバトルが始まった途端先ほど数人殺してきたかのような鋭さを放つ目つきになるのもやめて。苦しい。直視できない。大大大問題。

 

究極に言いたくなさすぎるのだが、その可愛らしい顔立ちと声によくお似合いの、ラジオや生配信番組で見せる激甘ぶりっ子キャラ。普通に考えて、30歳の男性が美味しいのことを「おいちい」と言ったり、頬に酸素をためたり、写真を撮るときに片足をあげるポーズをとっていたら見る者も本人も大怪我するものだが、天﨑滉平は許されている。5億歩譲ってそれだけならまあ頷くしかないが、それだけではない。天﨑滉平の本来の中身は気持ち悪めのオタクなのだ。しかもおねショタ趣味。あの振る舞いとその趣味をかけると彼は自分のことをおねショタのショタだと思っているという最悪の方程式ができ上がってしまう。挙句それを何の躊躇いも無く公共の電波で危機として語る。本業のファンや彼自身のイメージへの影響を心配したラジオの方に心配されても「大丈夫ですよ、皆わかってるから」とさらりと言い放ち話し続ける。許されていることもわかっているのだ。本当に大問題すぎる。

 

さらに天﨑滉平に腹が立つ点は、これでいて器用だということだ。本当に言ったら吐きそうなレベルで言いたくないが、基本的に天﨑滉平は何でもできる。特技として挙げているラップやスポーツ(今現在は体力が落ち気味)はもちろんのこと、即興も上手い。料理もできる。月1回生配信で視聴者と交流しながらお題のメニューを作るのだが、普通に毎回おいしそうに出来上がっている。もちろん本人も自覚がある「できちゃうんですよね」とふざけたように笑って言っていた。ダメ押しに、都内一人暮らしで車持ちであることも最近判明した。あーーーーーーーーーーークソ大問題…。

 

こんな調子で、天﨑滉平のことを見聞きすると歯軋りが止まらなくなる。生きている人間に対して、今まで抱いたことのない感情の種類だ。

 

そんな大問題だらけの天﨑滉平に最初に不信感を抱いたのは、7月に放送されたヒプノシスマイクのバラエティ番組、通称ヒプスタだった。

ディビジョンごとにキャラクターやその楽曲についておさらいしていく、という趣旨の番組で、もちろん天﨑滉平も木村昴さんや石谷春貴とともに出演していた。本当に、あれさえ見なければ…。

彼が担当する山田三郎は、作品キャラクター中最年少の14歳だ。

キャラクタープロフィールでそれについて触れられたとき、天﨑滉平は「僕、30歳ですよ」と言ったのだ。

大げさでもなんでもなく、自分が30歳に見えないことも、周りからそう思われていることも、見事に14歳の山田三郎を演じているという自覚のある人間の表情と言い方だった。

その顔を見て声を聴いた途端、笑いながらも全身の毛が逆立つのを感じた。

 

こいつは全部“解って”やっている…。

 

そう気づいた瞬間から天﨑滉平に対する不信感は止まらなくなった。そしてこの文章を打っている今この間も不信感は増し続けている。

不信感が増し続けると人はどうなるか。

回収するために目が離せなくなる。不透明な政治に開示を求める民衆と心理は同じだ。

写真集を購入してしまったのは本当にまずかった。顔を直視できないものだから、最後のページまでたどり着くのに数時間要した。

カメラを通してこちらを見ている天﨑滉平の真っ黒い目には何が映っているのかわからないし、確かめるすべもない。ただ、インタビューで「写真を撮られるのは苦手」と話していた彼が生き生きと台湾の街を満喫している姿を納めた写真たちを見ていると、気付きたくない感情に気付きそうになってしまうから、ますます顔を見れなくなってしまう。

 

すべては追えていないが、生配信やラジオでキモオタぶりっ子を存分に発揮する天﨑滉平にもだいぶ歯軋りさせられている。削りすぎてそろそろ奥歯が無くなりそうだ。彼がレギュラー出演している番組は多いため、ほぼ毎日何かしらの媒体で天﨑滉平が生存しキモオタ小器用ぶりっ子声優活動をしている姿を見聞きできる。

 

本業のときは少年から青年までのキャラクターに丁寧に命を吹き込み、それだけでなくラジオや生配信やイベント出演もこなす、といった多岐にわたる活動をしている天﨑滉平に、最近深夜ラジオで「本当のあまちゃんはどこにいるの?」という質問が投げかけられた。

それに対して天﨑滉平は「どれも本当の俺じゃないよ。演じていると言えば演じてるから。」と答えた。

 

あーーーーーーーーーもうなんなんだ。なんなんだこの男。

 

さきほど個人的な天﨑滉平の大問題点を挙げたが、彼の根本的な部分はきっと一生見えないのだ。声優というエンターテイナーなのだから当たり前のことなのだけれど、ここまで見せておいて大切で生々しい部分はあまり見せてくれないところにまたさらに歯軋りしてしまう。

思えば、天﨑滉平はいつもそうだ。

自撮りは見せてくれるけど、使っているiPhoneは見せてくれない。

高塚智人さんに素敵な誕生日プレゼントをもらったことは話してくれるけど、何をもらったかは内緒にして話してくれない。

車買ったことは教えてくれるけど、車種も値段も教えてくれない。

ダイエットしてやせた事実と姿は披露するけど、体重は公表しない。

 

どれもかなりプライバシーに関するものだから隠したい気持ちはもちろんわかるけど、でも、ここまでどこか身近な存在と錯覚させておいてそうやって急に物理的な距離を見せてくる。私がいままで歯ぎしりしていた天﨑滉平の中身さえも、全部彼のエンターテイナーとしての「キラキラした部分」の一部分にすぎないのだとハッと思い出させられる。

 

天﨑滉平の仕事が見たいからという理由で、長い間近寄らずにいたあんスタや、勧められたまほやくにも手を出してしまった。藍良もクロエもとても真っ直ぐないい子で、だけど自分に自信が無い不安定な子。そんな感情豊かで生きている等身大の少年を演じるのが、天﨑滉平は非常に巧いと思う。素直に好きだ。

 

こうして毒はどんどん全身を回る。言動をつかさどる部分にも回り始めたら危ないので、必死で「天﨑滉平というヤバい声優を興味本位で見ている」というもはや壊れかけているていを崩さないように必死だ。もはやそんなの苦しい言い訳なのがどう考えてもわかるくらいには気持ちが大きくなっているのに、見て見ぬふりをしながら日々抗い続けている。

さっさと認めればいいのに…と自分でもたまに思うが、これは全部自己防衛であり、予防線だ。

消費者として以上に関わることが一生ありえない異性に対して必要以上の感情を向けたところで、待っているのは傷つく結末だけだから。それに、もしいつか天﨑滉平が誰かと人生を共にすることを我々に教えてくれた時に、彼が出会わせてくれたキャラクターたちに対しての大好きの気持ちまで失ってしまうのは絶対に嫌だ。だから、天﨑滉平のことは好きではない。だけど天﨑滉平の仕事は大好き。という設定で日々彼を消費している。

ただもう毒はだいぶ回っているので、その時が来たときは天﨑滉平と3次元女性の公式恋愛的絡みに喜びながらも、心の底では落ち込んでしまうのだろう。もちろん過去の噂を見ていないわけではないし、彼からしたらだいぶ最悪なことにその一連の話も込みで目が離せなくなっているので、手に負えない。それなのに感情を認めることは抗っているので、自分でもわけがわからなくなる。

別に顔自体は好みではない。砂糖の割合が高すぎる。だから本来ならば興味はわかないはずなのに、こんなことになってしまっているのは毒の効果としか思えない。

本当に、甘さの毒みたいな男だと思う。

ヒプノシスマイクにドはまりしている話

ごきげんよう

 

2021年5月上旬、ヒプノシスマイクにハマった。
こうなる前、「絶対にこのジャンルで狂うことはない」という自信があった。なぜなら、オタクになってから大きくジャンル移動した経験がほとんどなかったから。

9年ほど黒子のバスケを追い続け、7年ほどテニスの王子様を追い続けている。途中で旬ジャンルアニメを見たり一時的に意識が向くことはあれど根本的にはこの2作品が常にあった。完全に週刊少年ジャンプスポーツ漫画枠のカモ。

話題になったゲームやアニメは目を通すが、上記2作品以上に夢中になれるジャンルは今後は現れないのだろうと思っていた。刀剣乱舞あんさんぶるスターズ!、ツイステッドワンダーランドの話題が常にのぼっているTLの中でずっと伊月俊の無い話を一人で話し続ける気味の悪いアカウントを運営している状況が続いていた。

私は何かのジャンルにハマるとき、キャラクターから入ることが多い。もっというと、キャラクターの見た目。ヒプノシスマイクはキャラクタービジュアルは綺麗だなあと思えど、ぱっと見すごく好きな見た目のキャラクターはいなかった。というのも、どちらかというと上品でクールな雰囲気の男が好きだからだ。ラップやヒップホップというとどうしてもヤンキー気味ガラ悪めで強めな殿方たちというイメージが先に来る。楽しそうだし盛り上がっているのは納得できるものの、きっと「ものすごくハマる」ということはないんだろうなあ、というのが所感だった。

思っていたので、いつものごとく「ちょっと触れる」つもりで、アニメの1話を見てから初期4ディビジョンの曲のみを全員分購入した。ちょうど環境の変化などもあったのですぐに残ることはなかったが、2カ月ほど聴いていればインパクトに残った歌詞が出てくる。それを検索したりそのキャラクターがその歌詞を用いる意図が知りたくて、Googleツイッター、Pixiv,で検索していく。

検索履歴はあっという間にヒプノシスマイクのキャラクターたちの名前と関連ワードで埋まっていった。

そのうちにキャラの名前とプロフィールを自然に覚えた。もうこの時点で知らない他人ではなくなっているのだが、時すでに遅し。

とくに残ったのが、「魔法使いのfour teen」を自称する現役中学生、MC.L.Bこと山田三郎だった。

パワー全開系兄二人とはうって変わってというか他ディビジョンの誰とも被らないクラシックがもとになっている曲。最初認識していなかった頃、New Starのイントロがシャッフルで流れてくると「こんな曲入れたっけ?」と首を傾げたものだ。これがまあ、クセになった。

メロディーがクセになったので歌詞に集中して聴くようになった。

Aメロこそ「イージーモードのゲームみたい」だの「それで本気?マジで歯ごたえなさすぎ」だの舐めまくり煽りまくりのクソガキ印象が強いが、Cメロに入った途端に違った視点からの彼の内面的なものが語られ始める。

 

「明け方に眠り昼過ぎに目を覚まして」

「ふとこんな時たまに思うよ 普通の中学生だったらって」

 

え、学ランらしきもの着てるけど学校行けてないの…?

学校も行けずに戦ってるの…?

前に1話だけ見たアニメだと全然そんな感じじゃなかったけどヒプノシスマイクの世界そんな殺伐としてるの…?

 

意識した途端検索履歴は「H歴 戦争」「H歴 治安」「山田三郎 学校生活」「山田三郎 不登校」「ディビジョンバトル 治安」等で埋まった。

調べたところどうやら普通に中学校には通っているらしく、歌詞についてはただ学校がない日の朝寝坊だとわかったので安心したが、この頃から山田三郎が脳に居座り続けるようになってしまった。すっかり山田三郎の声とあの調子がクセになったので、ちょっとこれだけ、と「レクイエム」を単体で購入し一晩聴き続けたりした。

 

もっと知るにはどうしたらいいかと考え、アニメを1話から見ることにした。仕事終わりに毎日2~3話ずつ見続けたため数日で完走した。演出や展開には笑いを禁じ得ない箇所が多いが、1stバトルの大筋を理解するには大変に良かった。作画も一切崩れることが無く大変に良い。自称ドバイのゲームクリエイターというトンチキワードもちょっとしたSub rosa。

アニメのOPの「最強の二親等」という言葉が個人的に心に響きまくったのでスケジュール帳に何の意味も無く書いてある。OPは完走後購入し毎日聴いている。

YouTubeでフルで視聴可能の「おはようイケブクロ」を毎朝聴いてから出勤するようになった。退勤後は二次創作を読み漁り、気になったことを調べるので起きている間はほぼ常にイケブクロディビジョンのことを考えている状況になった。

 

1週間ほど経過し引き返せないところに立ちかけていることに気付いたので怖くなり、「これ以上好きになりたくない」「いっそ全部忘れたい」と葛藤したが、脳はヒプノシスマイクの男たちの情報を求めているのでもう止められなかった。ツイッターで自分と同じ状況の人がいないと安心できず、「山田三郎 地獄」で検索し続けた。

 

何もわからないまま2ndバトルオオサカVSイケブクロにかなり微力ながら参加し、イケブクロが勝利した様子をAbemaで拝聴したとき、涙が出た。自分はほぼ何もしていないのに勝ったことを喜んでいるのが情けなくなり、さらに泣いてしまった。ファンの財力で勝敗が決まるこのイベントに末恐ろしさを感じつつ、それでもいいから勝ってほしいと思っているので、もうとっくに好きになっていることに気が付いてしまったのだ。

 

ヒプノシスマイクの恐ろしいところは、「これを見れば(読めば)(聴けば)すべてがわかる!」という媒体がないところだ。これが必ず「原作」という大本が存在しているジャンルに長年いた私にとっては目が回る点だ。

大本はCDのドラマトラックで話が進んでいるようだが、ドラマトラックのみではバトルの勝敗まではわからない仕様になっているようだし、コミカライズ版で詳細情報や追加情報が明らかになる箇所もいくつもある。勝敗を知るにはライブ円盤を見る必要があるし、オリジナルキャラクターも出演しておりH歴という時代背景をより深く知るには舞台版を見なくてはならない。日常的なキャラクター同士の絡みが見たかったらソシャゲアプリのオリジナルストーリーを開かなければならない。忙しい。

あと、まだまだストーリー上謎な点が多く、伏線がそこらじゅうに張り巡らされているところも怖い。一体あと何と何と何と何と何を隠しているんだ。ぱっと見主人公的ポジションかのように見えた山田一郎だが、「どんな男か」を問われるといまいち言葉にできないところが怖い。

昨年秋に発売された公式ガイドブック購入資金に充て、舐めるように眺めた。テニスの王子様に育てられたので、キャラクターのプロフィールに「え、足のサイズは?視力は?好きな映画は?好きな本は?給料(お小遣い)の使用例は?好きなタイプは?今一番ほしいものは?…お前らのこと何もわからないじゃねえか!」と混乱してしまった。

わからない。知りたい。知りたくない。わからせろ。

 

いま現在イケブクロVSヨコハマを全媒体制覇するためにコミカライズの到着を待っている状況だ。早く届いてほしい。私には時間がない。こうしている間に2ndバトルの決勝は近づいてくるし、8月のライブまでにヒプノシスマイクの過去3年分の軌跡に追いつかなければならない。

ぱっと見好きな見た目のキャラクターがいない、などと思っていた男たちの姿を見るために速足で帰宅し、その声を聴きながら知識を得るためにぶっ通しで検索作業や情報まとめ作業を続けているので夕食を取り忘れることが増えた。気が付くと深夜になって慌てて風呂に入り寝るので元々悪い肌の調子はさらに最悪だ。狭い部屋に引っ越したばかりで、「広い家に引っ越すまではモノを増やさずに過ごす」と決めたはずなのにそんなこと忘れて日に日に物が増えていく。

ただ、楽しい。そして、成人になっても全く新たなものにこんなに好きという気持ちを向けられていることに正直驚いている。

コンテンツの性質上悲しい思いをすることがこの先確実にあるだろうし、設定上仕方ないのだが、キャラクターたちの考察をするとなかなかに重い予感がするので既に心を引きちぎられながら履修しているのだが、気付いたらその苦しささえも集めるために走っている。

なんて恐ろしいんだ。

出会えてよかったけど、出会いたくなかった。

日吉若を愛してしまった

待ち望んでいた。氷帝学園が、日吉若が勝つ日を。


日吉若は、主人公越前リョーマと戦うために生まれてきた。

青学の柱で未来であるリョーマくんの対比となるキャラクター。確固たるスタイルを持っており強いのだということを明確にした上で負けてしまうのは当然だ。仕方ない。
全国大会のダブルスでは、乾先輩と海堂くんが関東大会での敗北を経た上での絆と努力を描くのだから負けてしまう。当然だ。仕方ない。
U-17合宿の同士討ちは、跡部景吾から明確に部長を託される試合。テニスや跡部景吾への想いを私たち読者に分かるように示し、成長した姿を見せてそれでも跡部景吾という選手の「今は」越えられない絶対的な存在であることを思い知ると同時に来年の、そしていつか絶対彼を倒すことを再び強く決意する。だから、敗北してしまうけど仕方ない。
仕方ない。仕方ない。
でも、いつになったら日吉くんが試合で勝つ姿を見られるんだろう?

 

跡部景吾という絶対的な憧れであり倒したい相手であり目標の背中を一心に見つめ続ける、強くて、美しくて、生意気で、憎めない可愛らしさもあって、負けず嫌いで、真っ直ぐで、まだまだ未完成で、目が離せない。私にとって日吉くんはそういう存在だ。


ビジュアルをひと目見た時から既に少し好きになっていた。原作で、アニメで、ミュージカルで彼の言葉を聞いて試合を見てどんどん好きになった。気が付いたら1か月もしないうちに私の部屋には原作全巻と愛蔵版、日吉若等身大タペストリー、キャラソンCDが揃っていた。今世に出ているものだけではなくて、もっと日吉くんの試合やテニスをしている時以外の普段の彼が見たいと思ったから。
幸せなことに、テニスの王子様はファンの想いが原作者の許斐先生や制作スタッフさんたちにそのまま伝わる、素晴らしいジャンル。だから、この「好き」という気持ちを微力ながらもお金やコメントに変えていけばそれは必ず叶うと思った。


そして去年の春、願いが突然に叶った。
今の原作から少し未来の話で、日吉くんの試合が描かれることになったのだ。
日吉若を好きになった日から、ずっとこの日を待っていた。日吉くんが勝利して、私たちファンに笑顔を見せてくれる日を。
下剋上という言葉について、日吉くんは同士討ちの対比と跡部戦で「負けた時の予防線」と語っている。よく言えば挑戦者。わるく言えば自分は下位の者で、負けて元々。そう思っていたと。
だが全国大会を経て、跡部景吾から部長のバトンを引き渡されて、日吉若は変わった。ひとまわりもふたまわりも成長した。「アンタを倒して俺が天下を獲る時来たり」何回読んでも見ても、この日吉くんの言葉を見ると胸がいっぱいになる。
私の推し、強いじゃん。かっこいいじゃん。
あの時からまたさらに成長した日吉くんが見られるのだと、嬉しかった。それと同時に、もう負ける気なんてしなかった。日吉くんが、氷帝が必ず勝つ。なんの疑いも無くそう思っていた。メタな話をしてしまえば、テニラビの前日譚やメディアミックスでの扱いを見ていても、氷帝がチャレンジャーサイドであることは明らかだった。挑戦者として戦う推しが、楽しみで仕方なかった。

前篇で見せてくれた日吉君の姿に、涙が止まらなかった。

跡部景吾の背中だけを追い続けていた日吉くんが、共に戦う部員たちを見ている。氷帝学園でのS1の座を一番欲しいものと上げていた日吉くんが、仲間たちとの全国制覇を目指している。

贔屓目なしに、成長著しい日吉若が負ける気がしなかった。

 

来たるS1の対戦カードは、日吉若VS切原赤也
ずっと見てみたいと思っていた試合だ。日吉くんが今一番ほしいものとして挙げていたS1の座。新人戦から約1年半。かつて戦って敗れている赤也相手に、どんな技を繰り出すのか。どんな言葉を向けるのか。そして相対するW杯を経た赤也は、選手としてどのように成長しているのだろう。手汗と動悸が止まらなかった。

 

日吉くんの能力の成長は期待以上だった。
なんらかの新技を会得しているということは予測していたけれど、まさか四神を召喚してオーラを背負うとは。演舞テニスにその先があったなんて。一発でナックルサーブを返してしまうほどに進化しているだと。

日吉くん、強いよ。凄いよ。

部長を自分が引き継ぐことを当然とハッキリ答える日吉くんが、夕日と相まって美しかった。何度も敗北を経験し、それでも自分が氷帝テニス部を率いると決意した日吉くんはまぶしかった。

幼稚舎の日吉くんが跡部さんのテニスに出会って「跡部さんは、俺が倒す」と中学校進学後テニス部に入ることを決めたのもこの日と同じ綺麗な夕日だった。

あれから2年以上過ぎたけど、その目は変わらず跡部景吾を映しつつも一緒に戦う仲間たちが横に立っている日吉くんは、強い。赤也に圧倒され「このまま俺は(負ける)」と一瞬弱気になりかけるも跡部さんの一言ですぐに立てなおすことができた。
本気で心の底から、日吉くんが勝つと信じていた。だから日吉くんが膝から崩れ落ちて試合終了した時、誇張でもなんでもなく本当にビックリしてしまった。

 

「試合は持ち越し」

赤也は日吉くんに向かってそう言ったけれど、むしろ、現時点では赤也の方が選手として能力が上回っているのだと決定づけられた試合だったと思う。
心も身体もあんなに強くなったのに。
ストーリー的に言ってしまえばどっちが勝ってもおかしくない流れで。

呆然としてしまった。心から悔しい。苦しい。負けてしまったんだ。

選手席に戻った日吉くんが跡部さんを目の前に悔しそうに顔をゆがめた時、跡部さんは「このキングダムコートに1粒もこぼすんじゃねえ。それは勝利の時にとっておけ」そう言葉をかけて彼の頭に触れた。
その言葉に日吉くんは強く頷き、部長としての背中は崩さずに試合を終えた。

私が代わりに泣いた。だって勝ってほしかった。勝つと思ってた。日吉くんが勝つ、そう信じてたから。
この二ヶ月間、いや、氷帝VS立海の制作が発表させられた時からこの瞬間を見ることが唯一怖かった。日吉くんが負けることが。日吉くんが負けて涙を流す姿を見ることが。

それは跡部さんのおかげで見ずに済んだが、もう暫くは立ち直れそうにない。痛い。辛い。苦しい。

かつて女子高生で所属していた部活の次期部長候補であった私は、日吉若にどこか自分を重ねていた。そんな時代があったせいもあるのか、今は彼の敗北が自分のことのように苦しい。
どうして日吉くんをこんなにも好きになってしまったんだろう。

そんなメソメソする私を他所に、スクリーンの中の日吉くんはとっくに前を見ている。関東大会でのS1後を思い出させるような、日吉くんだけの氷帝コールの中で君臨していた。切原赤也に対して2度目の敗北に心に痣をつくりながらも、その痣さえも糧にしてまたさらに強くなっていくのだろう。

 

立海神話はお前の代で途絶える」

 

自分を膝から崩れ落とした相手を前にしても、その姿を部員たちに見られていても、それでも、貫き通す部長としての姿勢。それはまさしく跡部景吾から受け継いだ背中だ。

日吉くんはこう言ってるんだし、おそらく、いや今度こそ絶対氷帝学園が勝つのでまだまだやっぱり彼から目を離せそうにない。

 

氷帝学園の勝利を信じて過ごしたこの11ケ月、本当に幸せだった。

だけど、それとは別にもう暫くこの苦しさを引きずってしまうだろうけど、許してほしい。それほどまでに本気で信じていたのだから。

日吉若の女から見た 氷帝VS立海 Game of Futureの殴り書き感想

ついにこの日がやってきた。

発表された去年の5月から、楽しみである半面怖くて仕方なかった。氷帝学園のファンとして、日吉若の女として、ただ怖くて、だけども待ち望んでいた。
朝から、轟レイさんによるOP主題歌である「1/2の未来」をずっと聴いていた。
勝つか負けるか、1/2の未来。だとするならば、その勝ちは氷帝学園が進んでほしい。決して譲れない道の先をただ真っ直ぐに見つめてる、日吉若。日吉くんにとっての譲れない道ってなんだろう。下剋上氷帝学園の勝利?全国大会、U-17合宿、観客席から見ていたW杯。それらを経た上で部長を任された日吉くんの目の前には、どんな景色が広がっているのだろう。
自分の緊張と不安と楽しみが全て歌詞とリンクしていて、爆発しそうだった。
舞台挨拶は、MCの成くんと諏訪部氏、さちん、川口監督が登壇された。配信開始前の挨拶であったので話せないことが多いらしく困っている様子が申し訳ないけど面白かった。正直このあと見る本編に気を取られすぎて細かくは覚えていないが、とりあえずブン太のガムの透明度は忘れずチェックしようと思った。
いよいよ始まる本編。
跡部様の入浴シーン(薔薇)から始まるところは流石だと思ったし、笑ってしまったが次のシーンに移り変わった途端に泣くことになった。
日吉くんが、部長になっている。
日吉若という存在を知り、好きになった時からわかっていた未来。初登場の時から次期部長候補として世界に存在していたのだから、当たり前の事実。のはずなのに、実際に目の前で魅せられると涙が止まらなかった。
鳳と樺地と3人で話し合いながらメニューを作っているシーンを見るだけでもわかってしまう。もう、関東大会の頃の日吉若はいない。
チームメイトの樺地のことをバケモン呼ばわりし、跡部景吾が好敵手である手塚国光と凄まじい戦いの末勝利した直後であろうと自分の勝利を当然のものとして構え、それどころかS1の座着くことだけを考えて目の前の対戦相手である越前のことすら見ていなかった控え選手。常に前向きで虎視眈々と跡部景吾の背中だけを狙っていた2年生。もう、あの日吉くんはいないのだ。
だけれども、決して「下剋上」を忘れたわけでも諦めたわけでも無い。ただその対象も共に目指す仲間も増えて範囲が大きく拡がった。そして、その分かける想いも強くなった。
立海への下剋上という言葉を跡部景吾から投げかけられた時にハッとした顔で素直にコートに走り、ラケットを握りながら立海跡部景吾への下剋上を誓う日吉くんの姿が眩しかった。
試合を見ている時も跡部景吾の隣で冷静に試合展開を分析する日吉若。ガムシャラに走るだけでなく、「勝利」を確実に獲る現実と捉えてその王座に座っている。
その成長というか時間の流れがいとしくて温かくて、だけどちょっぴり寂しくて泣いてしまっていたのだと思う。日吉くんが大人に近付いているという当たり前の事実が胸に刺さった。
勝ってほしい。お願いだから。勝ち負けがすべてではないけど、それでも彼の勝利した姿が見たい。日吉くんに、勝って欲しい。お願いだから。

D2 忍足向日VS丸井玉川
このダブルスオーダーを見た時も涙が溢れた。だって、ずっと見たかった。
忍足侑士と向日岳人のダブルスが好きだった。
小学生時代転校を繰り返していて、関西で孤高の天才だったシングルスプレイヤー侑士が、何故パッと見何もかも真逆に見える向日さんとダブルスを組んでいるのか。
これは私の勝手な考察だけど、侑士は向日さんの魅せるプレイにこだわる、勝ちだけでなく勝ち方にこだわるその「美学」に惚れているのだと思う。
平たく言えば、多分向日さんとのダブルスが好きなのだ。向日さんも同じで、2人とも2人のテニスを楽しんでいる。
作中でも数えるくらいしかいない互いを「侑士」「岳人」と下の名前で呼び合う二人。納豆が好きな向日さんと納豆が嫌いな侑士。もしテニスが無ければ話すこともなかったかもしれない2人が、同じテニスコートで楽しそうに戦う。
出会いが給水塔の上という少女漫画のような2人がついに映像化された時は目頭を覆った。関西から来たやや無愛想な新入生に明るく、でも自分の決意を持って話す向日さん。向日さんはあの出会った日から変わらずに跳ぶ。
ダブルスコンビであると同時にタイプが違う「友達」であることがわかるのが好きなところ。色々なダブルスの形があってそれぞれに違った魅力があるけど、私はこの2人の形がいっとう好きだ。
だからこそ、関東大会の試合を原作でもアニメでもミュージカルでも見てきて毎度思っていたのは「そんな」という気持ちだった。確かに2人に相手が黄金ペアでないという驕りは十二分にあった。だけど、負けてしまうなんて。急造コンビに。
新テニでも正直2人のダブルスを見ることはもう難しいだろうと思っていた。
だから、本当に嬉しかった。向日さんが自分の美学を崩さず、侑士がそれを尊重して戦う2人の姿が見られて嬉しかった。そして、勝った。場所が映画館でなければ私も叫んでいた。
「飛ばせてもらっちまったな」「2人でとった勝利や」
ああ、なんて眩しいんだろう。
本当に嬉しいよ。おめでとう。
おおよそ同じ理由で丸井桑原のダブルスを見たいとも思っていたから、そこは少し残念だったけど玉川よしおくんのキャラがとても魅力的で見入ってしまった。今は決定的に足りない自信も、これからどんどん得ていくのだろうと思う。
先輩の背中を見せる丸井(よしおの名前は覚えてないけど)も、「最後の試合、ブン太と出たかった」と強い思いを示しながらも立海の未来を見据えているジャッカルも凄くかっこよかった。
いい試合だった。

D1 鳳樺地VS真田柳
オーダーを見た途端「アッ」と思った自分がいる。それは(負けるかも)という意味での「アッ」だ。
真田と柳。立海三強のうちの2人。化け物。
正直この2人をダブルスで使うのは意外だとも思ったけど、ダブルスを一勝は確実に獲るという意図なのだとしたら効果的だ。
実際、最初は一方的な展開だった。もはや人間技でない必殺技を次々と繰り出す立海ペアを前に鳳のサーブ以外は圧倒されていく2人。
鳳と樺地に共通しているのは、言わずもがな特定の先輩の存在。鳳の場合は精神的支柱が宍戸亮で、樺地の場合は主人である跡部景吾。その存在は強みであったが、もちろん同時に弱みでもある。彼らがいなくなる1年後、2人はどうなるのかという疑問が生まれてくる。
私個人は心配とまでは行かなくともやはり「一悶着はあるのかなあ」くらいには思っていた。
それはまったくの杞憂だった。
U-17合宿とW杯観戦を経た2人の精神が成長しないわけが無いのだ。
ただ、相手が相手なのでどこかで「負けてもともと」という気持ちがあったのは先輩に見破られていた。それを指摘されてからの2人の表情の変化に鳥肌が立った。
勝つのは氷帝。私たちのスローガン。
勝ちに行く2人にまた泣かされた。樺地が、真田と柳の超人技を次々とコピーしていく。かつて宍戸さんに支えられる場面が目立っていた鳳が、対戦相手を見つつ樺地を見ながら冷静にゲームメイクしている。強い。幸村くんに言わせるくらい。
そして、先ほどの自分を恥じた。
私は氷帝学園の勝利を信じきれていなかった。個々で見た時の立海選手とのパワーバランスの傾きをどこかで勝率と結びつけていた。2人が、命を賭すほどに勝ちに走っているのに。なんて愚かなんだろう。
ハンカチを握りしめて応援した。今度こそ、心から2人の勝利を信じた。
最後の一球が決まり立海ペアが勝った時、身体が冷えていくのを感じた。
普段あまり表情が変わらない樺地が悲しそうな顔をして、跡部さんから投げられたタオルの下で鼻をすする姿が痛かった。関東大会で涙を流していた鳳が真っ直ぐ宍戸さんを見据えて悔しさを露わにする姿が苦しかった。
勝ってほしかった。すごく凄く、自分の事のように悔しかった。
それでも「次は負けるな」と声をかけられて小さく返事をする樺地と、まだ満足出来なかったと唇を噛む鳳に、確かな未来を感じたのも確かだ。
真田も柳も、強かった。怖いくらい強い。そんな2人に本気で勝ちに行く鳳と樺地が、誰よりも怖いくらい強かった。
そんな2人が来年の氷帝学園にいてくれることが、日吉若を支える立場にいてくれることが、嬉しい。ありがとう。
いい試合だった。

D3 宍戸VS柳生
完全に予想外のオーダーだった。
これはGame of Future、つまり未来に向けての試合。つまり中学を卒業後もテニスを続けていく彼らの試合でもある。
跡部さんと日吉くんが決めたオーダー。勝利のためには宍戸鳳ペアは鉄板。確かに私はそう思っていたところはあるし、もちろん2人のダブルスがまた見たいとも思っていた。
氷帝学園は敗者切り捨て。その方針は途中から曖昧になっていたものの根本では生きているから、宍戸さんは関東大会で 橘さんに負けてからシングルスでの試合はしていない。
オーダーが発表されてから「必ず勝つ」と誓う宍戸さんを見て全身に力が入った。
相手が柳生。正直、まったく勝敗や展開の予想がつかなかった。
柳生もダブルスプレイヤーのイメージが強い。そして相方は旅に出ている。本当にどこいったんだ。
しかし、その相方から受けた影響は強い。ただでさえ滅茶苦茶なレーザービームはさらに滅茶苦茶な方向に進化していた。
もうお前がこぼしたボールを拾ってくれる奴はいねえぞ。
跡部景吾の言葉に思わず頷いた。
鳳と宍戸さんのコンビは、鳳が宍戸さんを真っ直ぐ尊敬しまた精神的支柱として寄りかかっていると見られやすいが、実際はそうではないと思う。
実際、一度「お前はもう終わってる」とはっきり言われた宍戸さんが正レギュラーとして復帰出来たのは鳳というパートナーが居たから。自分のことを信じてついてきてくれる後輩というのは自身を鼓舞し大きな力になっていた。宍戸さんの中でも鳳という存在はかなり重要な精神的支柱になっていた。そして本人にもその自覚はあった。
冒頭シーンで「俺たちにとっては最後の試合だからな」と言い放ちその言葉に反応する鳳のやりとりがあった。
さきほどのD1では、すっかり氷帝を背負う一員としての鳳長太郎の顔が見られた。では、残していく立場であると同時にそのパートナーを欠いて高校という新たな舞台での戦いを控える宍戸さんはどうなのだろう。氷帝最強ダブルスの答えが、ここにあった。
仁王雅治という最恐の詐欺師パートナーが戦う姿を元に進化した柳生と、鳳長太郎という力強く自分を支えてくれるパートナーに背中を見せる為に戦う宍戸さん。シングルスなのに、ダブルスっていいな、そう思わせる試合だった。
最後の決め球を叩き込み雄叫びを上げる宍戸さんと、同じくらい大きな声で叫ぶ鳳。沸き上がる氷帝ベンチ。ED曲がかかるタイミング。跡部景吾の歌い出し。
そのすべてが涙腺を刺激して大変なことになった。
嬉しい。凄い。
勝った。でも柳生の技滅茶苦茶強かった。
いい試合だった。

ED曲がかかったことで前篇はここまでだということがわきったら、全身の力が抜けた。
すごく疲れた。エンドロールを眺めながら勝った試合も負けた試合も、その選手たちの顔やセリフを思い出してまた涙が零れた。

多分。多分だけど、次は日吉くんの試合と跡部様の試合がある。わからないけど、おそらくそうだと思う。
そして、勝つか負けるかが決まる。というかもうアフレコが終わっているということはつまり決まっているので、それを知ることになる。

日吉くんはどんな試合を見せてくれるんだろう。どんな思いを今抱えているのだろう。
譲れない道は、なんだろう。
その答えを知るために、4月17日まで絶対に生きていきたい。

高尾和成が怖い

黒子のバスケに出てくる高尾和成と聞いて、人々はどんなことを思い浮べるだろうか。

秀徳高校バスケ部一年生。

コミュニケーション能力に長けた、緑間真太郎の相棒。

鷹の眼の使い手であるPG。

負けず嫌いの努力家。

そんな彼について、黒子のバスケキャラクターズバイブルにて、作者の藤巻先生はこう述べている。

 

「いい奴だし描いてて楽しいんですが、自分は苦手なタイプ。決して嫌いではありません」

 

私は高尾和成が怖い。もうめちゃくちゃ怖い。もしも身近にいたらと想像しただけで緊張する。手元が狂う。平常心でいられない。

高尾和成というキャラクターのことは好きだ。人生で一番最初に買ったキャラソンCDは高尾のものだったし、今でも私のツイッターのつぶやきには少なくない頻度で彼の名前が登場する。秀徳対洛山の試合では自然と涙があふれた。EXTRA GAMEで緑間くんと赤司くんにて空中装填式3Pシュートを「完璧だっつーの」と悔しさと嬉しさと誇らしさが入り混じる表情でつぶやく彼のことが好きだ。

ただ、周囲に高尾がいたら怖いので本当に嫌だ。

齢16歳にして自身の長所について「人見知りあんましないこと」、反対に短所については「逆に人によっては馴れ馴れしいとも言われっから…その辺のキョリ感」と話す。ただコミュニケーションの力が高く、明るくてノリがいい男というだけではない。自分のことも、その自分のことを見ている周りの人間たちのことも、彼は見えている。

それを知った上であのように振舞えるところがすごく怖い。

だって、「こいつ自分のことあまり好いていないな」「好ましく思われていないんだろうな」と行動や言動から察知してしまったら、自分もその相手のことは少なくとも進んで関わりたい相手ではなくなるのが普通だと思う。それなのに高尾は緑間くんに進んで絡みに行き、その隣で競うように努力を続けるメンタル。能力パラメータで精神力が10段階のうち7とは到底思えない。というか現時点で7だったら3年生に進級する頃には一体どうなってしまうのだろう。

なぜ私はこんなに高尾和成のことが怖いのか。それはおそらく高尾の自分に対する厳しさが周囲に対しても滲み出ていることがある(と勝手に妄想している)からだと思う。

黒子のバスケは試合描写が本編の8割以上を占めるため、登場人物たちの日常場面はわずか。ゆえにそのわずかな日常パートや小説版、アニメやそれに伴うグッズおよびキャラクターソングなどさまざまなメディアミックスから勝手に空白である普段の人物像を埋めている。

その中でも私が「高尾こわ」と思った3つのエピソードを以下に記す。

①「なーんてな♥」と言いながら相手の意表を突くプレイを繰り出す

結構序盤からこのシーンというかくだりはよく見られる。漫画における強キャラにはありがちなセリフと行動だ。つまり私は普段ヘラヘラとしていてその態度を崩さないまま力を行使するタイプの人間は大抵苦手ということになる。表情と行動が伴ってない人、現実にいたらめちゃくちゃ怖いじゃないか。

この彼の「なーんてな♥」が「なーんてな♥」じゃなくなったときを想像するとめちゃくちゃ怖くないか。マジ切れした高尾はおそらくシャレにならないくらい怖い。

仮に高尾が上司や先輩など自分を評価する立場にいる人間だったら。普段明るくて気の良い人だと思っていたのにある日呼び出されて自分の至らないところを驚くほど冷めた目で的確に淡々と挙げられる。え、なに、こわ、え…すみません、もう「なーんてな♥気にすんなよ!」といつもの明るい笑顔で肩を叩かれたとしても先ほどの説教中の冷めた目を見てしまった今もうその笑顔すらも怖い。

バスケ部関係者も、無関係であるクラスメイトや友人も多くの人が高尾に抱く「明るくてノリのいい奴」が崩れたときの落差が大きすぎるから怖い。

 

②「みんなよせばいいのに努力家だよな そんな相手がゴロゴロ出てくる青春ってやっかいだ」(キャラソン『エース様に万歳!』より)

これね、すごくいい笑顔で歌ってるんですよきっと。

怖い。ア――――もう怖い。努力が当たり前の彼が怖い。それも楽しんじゃってる彼が本当に怖い。まぶしい。

いやいやそんなの黒バスキャラのほぼ全員に言えることだろうと思うかもしれないが、高尾の場合は無言で無意識にその「当たり前」を他人にも求めている部分がありそうで怖い。「明るく楽しく生きたモン勝ちっしょ!でもそのためにはやることはやらなきゃじゃねー?なあ?」とでも言おうか。

そのやらなきゃならない「やること」のレベルが他人よりも高いところの自覚はない。それが高尾にとっての常識だから。①にも通ずるところがあるが、そのレベルに見たらない人間への冷たさが尋常じゃない。これももちろん悪気は一切ないのだ。「あーね、そういう考えの奴(人)もいるよね。…へー」みたいな顔で見下ろしてきそう。その顔も一応笑ってはいるものの上記の考えがにじみ出るどころか前面に出まくっているので、自分の能力が劣っている、その原因に努力不足や準備不足が含まれるという自覚のある人間は彼の隣で活動をしていたら死ぬ思いをすることになる。

私のことです。

 

③小説版2巻で「…おまえには関係のないことだ」という緑間くんの妙な間があることを見逃さない

まあ緑間くんは多分わかりやすいので誰でも「何かあるな」ということはわかるかもしれないが、それ以上にそこに突っこんでいくところが私は高尾和成の恐ろしさだと思っている。

高尾、意図的に核心ついてくることが多そう。緑間真太郎にそれができるのだから一般人相手に核心つくことなんて屁でもない。

やっぱりあのヘラヘラした調子を一切崩さず「○○さんってさー、ぶっちゃけ今めんどくさいと思ってね?」「あの人のこと嫌いっしょ?」とあまり触れてほしくないところもズバッと刺してきそう。

もちろんこれは意図的なのでその裏には(そのせいで雰囲気悪くなってんだけど?)(そのせいで仕事の効率落ちてんだけどどうする?)など彼の怒りや呆れのメッセージが込もっている。でもそれにしたって触れてほしくない感情を読んできそうなところが怖い。

性相手にどこまでそのような言い回しを使うかはわからないが、これを使われた日にはもう謝って黙ることしかできない。ああもうすみませんでした。

 

考えれば考えるほど高尾にはクラスやサークル、職場にはいてほしくない。自分の努力不足のせいで能力が低く、感情に左右されやすい私に高尾をあてられたらマジでひとたまりもない。

ところが、高尾のような人は実際にいる。彼ほどスペックが高いとかそういうわけでもないが、努力で高い能力を得て、一見人当たりはいいもののその調子を保ったまま核心ついてきたりする人はいなくもない。今まで生きてきた中でも数人は思い浮かぶ人物はいる。

ではそのような人とも上手くやるにはどうしたらいいのか。

わかるわけがない。わからないので、高尾属性(勝手に命名)の人には認められるか、もしくは表面上のかかわりを保つことしか思い浮かばない。そして認められる可能性は低いので後者を目指すもののかえって日に日に軽蔑されていく…というルートが容易に想像できてしまう。怖い。

 

ただ一つ言えることは、そんな高尾が築いた緑間くんとの信頼関係はとても尊いものだと思う。認めている、でも負けたくない。そんな感情から始まって、形を変え姿を変え、でも根幹にそれを残したまま唯一無二「とっておき」のコンビネーションプレイを生み出した。

関わりたくはないけどずっと見ていたい。高尾は、私にとってそういう人物だ。

森山由孝の魅力と潜在能力

先日、黒バスの異性モテキャラを真面目に考えた記事を書いたら思っていたよりもたくさんの反応をいただいた。リツイート先で「わかる」と共感してくださっている方、いやいやこのキャラもモテるんじゃあないか、という意見を仰っている方…。反応の種類は様々で、どれも非常に興味深い。あのランキングは公式や準公式のソースを元に考えているが、やはりどうしても私個人の男性の見方や好みも大いに関係しているため、違う意見はあって当然のように思う。

個人的には特に霧崎第一のファンの方々の反応が面白かった。霧崎第一は巷では「お坊ちゃん校」と呼ばれていると花宮真が自ら証言しているため男子校説があり、彼らが日常生活の中でモテるか否かはわからないが、もし共学であるならば花宮真の女子人気はそこそこ高そうだ。あの猫かぶりは風紀委員を務めていることから察するにおそらく日常生活の中でも発揮されており、バスケ部とは無関係の生徒や教師からの信頼も厚いのだろう。鋭い女子は花宮真が周囲の人間をもれなく全員見下していることをすぐに見抜きそうであるが、霧崎第一が私立の進学校であるならば、育ちが良く人を疑うことを知らないお嬢様も在籍しているはず。彼女たちは花宮のことを紳士と信じ込み慕いそうだが、花宮の方はこれまたやはり彼女らを見下しているので恋は始まらない。…いや、彼の好きなタイプは「頭悪い女」だから断言もできないが。一体この好きなタイプにはどんな意味が含まれているのだろうか。

原作に描写があまり無い分、このようにコマの外の黒子のバスケのキャラクターに関する妄想や考察は止まらない。「モテ」と「異性」と高校バスケ選手である彼らを勝手に結び付けて考えるのは楽しい。

 

ところで、「モテ」と「異性」のキーワードといえば一人、大事な人物が作中に存在する。そう、森山由孝だ。

海常高校バスケ部3年。ポジションSG。身長181cm。体重67㎏。趣味はフットサルで部活がオフでもスポーツで汗を流す塩顔イケメン。

この情報だけを聞けばあまたの女子たちが飛びつきそうなプロフィール。私もキャラクターとして見ても一男性として見ても森山由孝のことが大好きだ。マッチングアプリであの顔とこのプロフィールが現れたらいいね!はしないかもしれないが、ひとまずしばし眺める気がする。

私は森山由孝のことが大好きだ。その前提のもとで話を進めさせてほしい。

森山由孝のというキャラクターの人間性を語るうえで欠かせないのが、海常VS桐皇のIH準々決勝後の場面とセリフだ。会場を後にする部員たちの中に主将である笠松先輩の姿が見当たらず戻ろうとする黄瀬に対し、「やめとけ」とだけ声をかけ引き止める森山由孝。ロッカーでは一人、試合結果を受け涙を流し悔しさをぶつける笠松先輩がいることを彼は知っている。チームを背負う笠松先輩にその時間が必要であることを森山由孝はわかっているのだ。

彼のキャラクターが立った準々決勝前の描写から「女好き」「試合そっちのけで会場内の女の子を探す」などマイペースで軟派なイメージを私たち読者に植え付けていたが、上記のシーンからただそれだけの男ではないことがわかる。学校全体でスポーツに力を入れている私立高校の部活であり、体育会系なノリの強い海常バスケ部の中で、高い実力を持ちつつどこかとっつきやすい印象があるのも森山由孝のポイントが高い点だ。

そう思っていた。小説版第1巻を読むまでは。

小説版第1巻に収録されている「海常高校青春白書~夏休みはまだ終わらせない~」では、IH準々決勝から1週間後の海常高校バスケ部の面々の様子が描かれている。ちなみにバスケはしているけどしていない。

簡単なあらすじを言うと夏を充実させるという目的のもと森山由孝を筆頭に海常高校バスケ部レギュラー陣がナンパに繰り出す…という内容だ。ここではほぼ森山由孝が中心人物のようなものなので、そりゃもう喋る。本編の3倍くらいは喋る。喋りまくる。そして名言も飛び出しまくる。

 

「オレがネットで調べたところ、女の子ってのは、男の柑橘系の香りが嫌いじゃないらしい」

「オレがネットで調べたところ、ナンパは大人数でやるほうが楽しいと書いてあったからだ」

「残酷なのは、スポーツ少年の純情さを理解できない世の中だ」

「これは運命だから抗っちゃいけない。もうこの手を離したら、二度と会えない気がする。まさしく運命的めぐり合い。これを逃さない手はないよ」

「おかしいな、ネットで調べたとき、女の子は≪運命の出会い≫という単語で押せば、必ず折れるって書いてあったんだけどな・・・・」

 

森山由孝は思った以上に女好きだったし、しかも思った以上にその手口はネットだよりだった。

ついでに準々決勝前に目をつけていた「運命の女の子」には試合後ちゃっかり声をかけていたことも判明した。しかも一瞬でその運命とやらは引き裂かれていた。

先ほどの「あまたの女子が飛びつくだろう」と揶揄したプロフィールにも数々の補足がある。その中でも特にツッコみたいのは、特技:手相占い 好きな女性のタイプ:セクシーなお姉さん 苦手なもの:チャラすぎる女の子 の3点だ。

セクシーとチャラさはイコールではないが、混同されて使われることも多い。セクシーである、すなわち魅力ある女性が積極的にすり寄ってきたとき森山由孝は一体どうするつもりなのだろうか。

小説版第6巻で本編中3年生だった彼らの大学進学後の様子が描かれているが、森山由孝は全くブレていなかった。なんと試験会場で運命の女の子に出会ったからという理由で志望校を変更しているのだ。しかも入学後彼女は見当たらなかったらしい。もうどこからツッコめばいいのかいいのかわからない。そんなこんなで都内郊外の大学に進学した森山由孝だが、進学後さっそく女子大との合コンの約束を取り付けているなどなかなかにエンジョイしているようだ。前述したが森山由孝はその合コンでセクシーで積極的なお姉さんに「ねえよしたかくん・・・このまま二人で抜け出しちゃおっか♡」と寄りかかられたらどうするつもりなのだろうか。これは私の勝手な予想だが、脇汗をだくだくにかきながら「せっかくの運命の出会いなのだからゆっくりと…」とかなんとか言って逃げる気がする。なぜなら彼のいう「運命の出会い」とは本当に出会いのみで止まっており、その先のことは想像も想定もできていないからだ。だから声をかけても何も始まらない。会話も基本的にはネットで引っ張ってきたことでつないでいるため自分の話をしようとすると専門的で他者はあまりついていけないようなバスケの話になるため続かない。それに森山由孝はあんなにもモテや異性に執着しているわりに女心が一切わかっていない上に典型的な「追われるより追いたい」タイプと見受けられるので、向こうから迫られると分かりやすく引くと思われる。

それにしても森山由孝は、私生活において運命の女性とやらに対して一体どこまで本気なのだろうか。運命の女性と出会い恋愛をしたいという気持ちは本物なのだろう。しかし、好敵手との大切な試合で本気モードになれば「さっきから女子が目に入らん」とピリついた雰囲気を出したり、黄瀬経由で合コンが開かれてもバスケの話になった途端念願の女の子たちをそっちのけでバスケの話をしたりと、少なくとも口では何と言おうと彼の中ではバスケ>女の子であることは数々の描写からわかる。そんな彼だし、真に頭が悪い男とは思えないので「運命の女性がいたから」という理由だけで大学の志望校を変えたというのはどうにも腑に落ちない。運命の女性(というか一方的に一目惚れした女性)を見かけたからというのも理由の一つなのかもしれないが、おそらく彼なりに学びたい分野のことやバスケのことなど色々考えた結果なのだと思う。飄々としていて真顔でふざけてばかりに見えて、芯は真面目で強い男なのだ。ずるい。

森山由孝は思い込みが激しくこうだと決めたら真顔で突き進んでいく男だ。笠松先輩が言うのだから、女性相手に限らずバスケや私生活にいてもそうなのだろう。よく言えば猪突猛進な努力家、悪く言えばイノシシ野郎。まっすぐ向かっていったわりに終着点が見つからずいざそういう場面を迎えようとしても自分の中で整理がつかずに逃げ出す、もしくは思い切りとんちんかんなことをしでかし相手側から白い目で見られて終わる。

彼は運命という言葉で女性を釣って一体何がしたいのだろうか。なんか恋愛=幸せのようなイメージがあるのかもしれない。キスとかなんとかよくわかんないけど、自分好みの可愛らしい女の子が自分のこと好きって言ってくれたら最高に幸せなんじゃないか?みたいな思考なのか。異性や恋愛に対し過度に夢を見ていることがありありとわかる言動から考えると、おそらくというか確実に森山由孝は童貞なのだが、ぱっと見はそう見えないのもまた難しいところだ。一回どうにかして「女」を知れば落ち着くのかもしれないが、知ったところで「今回は運命じゃなかったらしい」と真顔で言っていそうなところもたちが悪い。

休日は友達とフットサルをして過ごすという陽キャっぷり。基本的には絡みやすくてツッコミどころが多いところも「面白くていい奴」という周囲からの評価を得てバスケ部以外の男友達も多そうだ。兄がいるし、彼が頼りにしているネット上にはモテるための服装のポイントなどの情報も腐るほど載っているため、私服もアニメやグッズ等本編外でしか見たことは無いが爽やかで都会的な雰囲気を感じさせる装いだった。

見た目は作中屈指のイケメンである黄瀬と並んでいてもそこまで見劣りしない。黄瀬本人も「オレほどじゃないけど、森山センパイってけっこうイケメンだと思うんスよ」と言っている。

「別名・残念なイケメン」を誇る森山由孝だが、趣味も人付き合いにおいてもセンスもなんら残念な点はない。ただただ恋愛の不慣れさが彼を残念たらしめているのだと考える。

つまり、森山由孝が本当はどんな女の子とどうなりたいのかを明確にする、そしてネット頼りでなく彼が女の子と持ち前の真っ直ぐさを発揮しつつ少しでも女心を理解した会話ができるようになれば劇的に変わると思う。同年代の異性から爆発的にモテるようになる。

森山由孝の潜在能力ははかり知れない。バスケだけでなく他の球技も嗜んでいるほか、特技もある。それも手相占い。こんな涼しげな顔のイケメンが手相も見られるなんて言われたら、彼のことを何も知らない、下心に気付かない女子は普通に手を差し出してしまうだろう。森山由孝のことだから、きっとネットで「手相が分かる男はモテる」みたいな情報を得てからすぐに会得したに違いない。異性やモテに対する執着もすごいが、それですぐに手相の知識や技術を習得できる器用さがすごい。バスケを始めたきっかけも本当に「モテると聞いて」と一見軟派な理由だが、それで全国レベルのチームのレギュラーを張っているのだからすごい。そんな理由で始めておいて自分の人生において大きな財産となる学びや仲間を得ているのだからすごい。森山由孝は、すごい潜在能力を秘めている。「英語が話せればモテる」と聞けばおそらく一般的な人よりも早く習得し話せるようになるだろうし、「総理大臣になればモテる」と教えられれば就任してしまうかもしれない。あの世界のWebライターは「〇〇すればモテる」という情報が記載されたネット記事を書くときはとんでもない怪物を生み出す可能性を含んでいるのだということを想定しなければならない。

おそらく大学生になりバスケ以外にさくことができる時間が増えた森山由孝は、「〇〇できる男はモテる」という情報に片っ端から踊らされてどんどん特技を増やしていくだろう。ボーリングやダーツやカラオケが無駄に上手くなり、運転技術は無駄に高く、美味しくてお洒落で雰囲気のある飲食店やバーに無駄に詳しくなっていく。特技が増えるにつれて会話のバリエーションも無駄に増えていく。しかしそんなことに時間を費やしているばかりで、ネットだけでは学べない肝心の女心はわからないままなので、モテるようにはなったとしても彼女はできない。

ゆえにその能力は彼の一生の友人であり仲間の笠松先輩や小堀さん、大学や職場の後輩(男)に対してのみ発揮され、いつまでも男にばかりモテる男のままなのだ。

ただ、それさえも含めての森山由孝の魅力。器用で柔軟性がありとっつきやすい、でも女心は一生わからない、というかそんな発想すらないので時たまがっかりさせられるがそれをカバーしようと一生懸命全身全霊を込めて「運命の女性」に尽くそうとしてくれる心の底から優しい男。女心はわかってないけど。

女心がわかってしまった森山由孝など森山由孝ではないので、一生そのままでいてほしい。きっといつかそれを含めて彼を愛してくれる人が現れてくれると思うので、それまで変わらずにバスケや仲間を愛し続け、ついでに特技を増やし続けてほしい。

森山由孝の人生に、幸あれ。